
歌手、森進一(65)の通算120枚目となるシングル「富士山」が注目されている。約10年前に作られた曲に森が再び息吹を吹き込んだ。曲は「千の風になって」の作者である芥川賞作家・新井満氏の手による。新井氏は「私の故郷は新潟、郷土の先輩といえば三波春夫さん。あるとき三波さんから電話がかかってきてね。『新井さん、ちょっとお願いがある』と。『新曲を自分のために作って欲しい』と。テーマは何がいいですか?って言ったら『富士山』ですって…」。しかし、「作ろうとしてもなかなかうまくはいかなかった」と新井氏は言う。「天下の富士山なもんだから、どうしても美しいとか、大きくて雄大であるとかほめたくなるでしょう。ところが、ほめて書けば書くほど富士山は『陳腐だねえ、月並みだねえ』と言わんばかりに知らん顔して遠くへ行ってしまうんです。何千年も大昔からほめられっぱなしなんです、富士山は。でね、それがわかったとき、作詞の方針を百八十度変えることにしたんです。富士山をほめるのではなく、逆に富士山からほめてもらうことにしたんです」春、夏、秋、冬の四季折々の富士山の姿を“人生”に織り込むことで、富士山と人生の四季が重なった究極の人生応援歌が生まれた。「人生も中年、熟年になってくると、いろいろあったけど頑張ってきたよな、って自負があるじゃないですか。けれども誰もほめてくれない。そんなとき、心の中にそびえる富士山だけは、ほめてくれるんだよな」新井氏のそんな思いがこの歌を書かせたのだろう。2009年に三波さんの歌として発表されたが、その半年後に急逝したことで封印された。その後は新井氏自らが地道に歌い続けていた。富士山が今年6月、世界文化遺産に登録されたことで、ビッグな人に歌ってもらおうということになり森進一が抜擢(ばってき)された。人生の哀歓を歌わせたら当代随一の森によって、“生命”が吹き込まれたのである。新井氏、三波さん、そして森のコラボレーションから生まれた「富士山」は、まさに日本人の心のビタミン剤だ。
Yahoo!ニュースより